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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)375号 判決 1985年7月08日

原告 島完志

被告 国

代理人 芝田俊文 仁平康夫

主文

一  被告梅澤洌美に対する主位的請求(民法一一七条の準用による損害賠償請求)を棄却する。

二  (右の請求の予備的請求及び同被告に対するその余の請求に対し)

被告梅澤洌美は原告に対し、金三九五万円及び内金三二〇万円に対する昭和五六年九月一一日から、内金七五万円に対する昭和五八年五月六日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告梅澤洌美に対するその余の請求及び被告国に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告梅澤洌美との間においては、原告に生じた費用の三分の二を被告梅澤洌美の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告国との間においては、全部原告の負担とする。

五  この判決は原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(被告梅澤洌美に対する主位的請求部分を含む請求の趣旨)

1 被告梅澤洌美は原告に対し、金六一五万円及びこれに対する昭和五八年五月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(被告梅澤洌美に対する予備的請求部分を含む請求の趣旨)

2 被告梅澤洌美は原告に対し、金四〇〇万円及び内金三二〇万円に対する昭和五六年九月一一日から、内金八〇万円に対する同五八年五月六日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3 被告国は原告に対し、金四〇〇万円及び内金三二〇万円に対する昭和五六年九月一一日から、内金八〇万円に対する同五八年一月二九日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は被告らの負担とする。

5 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告梅澤洌美

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  被告国

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(三) 担保を条件とする仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告梅澤洌美(以下「被告梅澤」という。)は、訴外橋本軍司(以下「橋本」という。)と共謀のうえ、実兄である訴外梅澤信貴(以下「信貴」という。)から入手した昭和五六年三月三〇日付け印鑑登録証明書を利用して、別紙物件目録(一)、(二)記載の土地・建物(以下「本件不動産」という。)を買戻特約付で売却し、売却代金を詐取しようと企て、橋本をして、被告梅澤を信貴本人であると紹介させて、不動産仲介業者である訴外小林俊文(以下「小林」という。)及び買主である原告に面会し、原告に対し、本件不動産について、売買代金を金七〇〇万円とし、買戻特約付の売買契約の締結を申し込み、原告及び小林をして、被告梅澤が信貴本人であり、信貴本人が本件不動産を売却するものと誤信させた。

2  そこで、原告及び被告梅澤は、昭和五六年八月一九日、東京法務局所属公証人柏木賢吉(以下「柏木公証人」という。)の公証役場(大塚公証役場。以下単に「公証役場」という。)に出頭し、同公証人に対し、本件不動産について、買戻特約付売買契約公正証書の作成を嘱託した。

柏木公証人は、被告梅澤提出の信貴名義の印鑑登録証明書及び印鑑を照合のうえ、被告梅澤を信貴本人であると認め、左記要旨の公正証書(以下「本件公正証書」という。)を作成した。

売買物件 本件不動産

売買代金 金七〇〇万円

登記   売買代金完済後速やかに行う。

特約(一) 売主は、昭和五七年九月末日までの間本件不動産を金八九五万円で買い戻すことができる。

(二) 買主は右買戻期限まで本件不動産の明渡しを猶予する。

(三) 右猶予期間中、売主は本件不動産の使用による損害金として月額金一五万円を支払う。

3  右のとおり、柏木公証人が印鑑照合のうえ本件公正証書を作成したので、被告梅澤を信貴本人と誤信し信貴との間に、右公正証書記載の内容の売買契約(以下「本件売買契約」という。)が成立したものと考えた被告は、前同日、被告梅澤に売買代金として金七〇〇万円を支払つた(ただし、うち金二四五万円については、訴外山田雅文(以下「山田」という。)の被告梅澤に対する債権を原告が金二四五万円で買い受け、右債権と売買代金とを対等額において相殺したものである。)。

4  その後昭和五七年五月、信貴が原告に対して、当庁に本件不動産について原告名義になされた所有権移転登記等の抹消を求める訴訟(東京地方裁判所昭和五七年(ワ)第六六〇八号事件、以下「別件訴訟」という。)を提起したので、原告は、原告が売買契約をした相手は、真実は、信貴ではなくて被告梅澤であつたこと、被告梅澤が公証役場に持参した印鑑は偽造されたものであること、したがつて、本件売買契約は無効であることを知つた。

そこで、原告はやむなく、別件訴訟において、昭和五七年一〇月一五日、信貴から金四〇〇万円の支払を受けるのと引換えに、本件不動産について原告名義になされた所有権移転登記の抹消登記手続をする旨の訴訟上の和解をし、同年一二月一日右抹消登記手続に必要な書類を信貴に交付した。

5(一)  被告梅澤は、信貴の印鑑登録証明書を濫用するなどして信貴に無断で同人名義で本件不動産についての買戻特約付売買契約(本件売買契約)を締結したが、右は代理形式による無権代理にきわめて類似した行為であり、右売買契約につき信貴による追認が得られない以上、同被告は民法一一七条の準用により同条にいう履行に代るべき損害の賠償をすべきである。そして、原告は、前記のとおり、信貴の裁判上の請求に基づき、訴訟上の和解が成立したため、昭和五七年一二月一日、本件不動産についてなされた原告名義の所有権移転登記の抹消手続に必要な書類を信貴に交付して本件不動産を同人に返還したものであり、本件売買契約においては、本件不動産を信貴に返還するに当たつて(すなわち買い戻しに当たつて)の、原告の受くべき対価(すなわち買戻代金)は金八九五万円との合意がされているものであるから、右金額が履行に代るべき損害であり、これから原告が信貴から受領した和解金四〇〇万円を控除した残額金四九五万円が、被告梅澤において原告に対し賠償すべき金額である。

(二)  右(一)の予備的請求原因

(1) また被告梅澤の前記1ないし3記載の行為が原告に対する故意による不法行為(詐取)を構成することは明らかであるから、被告梅澤は原告に対し、その被つた損害を賠償すべき義務がある。

(2) そして本件不動産の買戻特約付売買代金として原告が被告梅澤に支払つた金七〇〇万円から、原告が信貴から和解金として受領した金四〇〇万円を控除した残額金三〇〇万円が原告が被つた損害であるから、仮に前記(一)の主張が認められない場合には、被告梅澤は原告に対し右損害を賠償すべき義務がある。

(三)  また、右(二)(1)記載の不法行為による損害の賠償として、被告梅澤は原告に対し、右(一)又は(二)の損害のほか、次の各損害を賠償すべき義務がある。

(1) 金二〇万円

原告が昭和五六年八月一九日、不動産仲介業者である小林に対し支払つた本件売買契約の媒介についての報酬。

(2) 金四〇万円

原告が別件訴訟の遂行を弁護士高芝利仁に委任し、同弁護士に支払つた報酬。

(3) 金六〇万円

原告が本訴の提起、遂行を弁護士高芝利仁に委任し、支払うことを約した報酬。(ただし5(一)の主位的請求が認容される場合の報酬額である。)

(4) 仮に、5(一)の主位的請求が認められず、5(二)(2)の予備的請求が認められる場合には相当報酬額は金四〇万円。

6(一)  公証人が公正証書を作成するに当たつては、嘱託人が本人であるか否かを確認するため、官公署の作成した印鑑登録証明書の提出その他これに準ずべき確実な方法により人違いのないことを証明させることが要求されている(公証人法二八条)から、嘱託人が印鑑登録証明書を提出した場合、公証人にはその所持する印鑑の印影と印鑑登録証明書の印影とが同一であるか否かを社会通念上一般に期待される相当の注意をもつて調査すべき注意義務がある。

被告梅澤が公証役場に持参した印鑑の印影と印鑑登録証明書の印影は、前者が全体的に直線的でかつ角ばつていて、縦線、横線ともほぼ均一の太さの線で構成されているのに対し、後者は全体的に丸みを帯び、縦線が細く、横線が太くなつているほか、「梅」の字は、「木」の部分の縦線が前者の方が長く、「毋」の部分の面積が前者の方が広く、右下角の部分が前者は「」であるのに対し、後者は「+」で下に突き出しており、また、「澤」の字はさんずいの部分の第三画が前者は棒状、後者は三角状となつており、「」の部分についても前者は国構の中が、国構の線と同じ太さでしかも平行線であるのに対し、後者は、国構の中が国構の線よりも細く、国構の中の二本の線のうち左側の線が斜めになつており、「幸」の部分の下の横線二本の長さが前者は同じであるのに後者は長さに相違があるなど、異なつていることが明らかであり、このような相違は、照合事務に習熟している公証人が社会通念上一般に期待される業務上相当の注意をもつて熟視すれば、容易に肉眼をもつて発見しうるものであるにもかかわらず、柏木公証人は漫然とこれを看過し、そのため、被告梅澤を信貴本人と軽信して本件公正証書を作成したものであるから、柏木公証人には右の点に過失がある。

公証人の公正証書作成事務は国の公権力の行使に当たるものであるから、柏木公証人がその職務を行うにつき右過失による違法行為があつたものである以上、被告国は国家賠償法一条一項により原告の被つた損害を賠償すべき義務がある。

(二)  被告国の賠償すべき損害は、次のとおりである。

(1) 金三〇〇万円

原告が被告梅澤に支払つた買戻特約付売買代金名下に支払つた金七〇〇万円から、信貴が原告に支払つた和解金四〇〇万円を控除した残額。

(2) 金二〇万円

前記5(三)(1)と同じ。

(3) 金四〇万円

前記5(三)(2)と同じ。

(4) 金四〇万円

原告が本訴の提起、遂行を弁護士高芝利仁に委任し、支払うことを約した報酬。

7  よつて原告は、

(一) 被告梅澤に対し、民法一一七条の準用による損害賠償(主位的請求)及び不法行為による損害賠償として金六一五万円(5(一)、(三)(1)ないし(3))及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五八年五月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を被告国と連帯して支払うよう求め、右の主位的請求が認められない場合には、不法行為による損害賠償として金四〇〇万円(5(二)(2)、(三)(1)(2)(4))及び内金三二〇万円(5(二)(2)、(三)(1))については本件不法行為の後である昭和五六年九月一一日から、内金八〇万円(5(三)(2)(4))については本件訴状送達の日の翌日である昭和五八年五月六日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を被告国と連帯して支払うよう求め、

(二) 被告国に対し、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償として、金四〇〇万円(6(二)(1)ないし(4))及び内金三二〇万円(6(二)(1)(2))に対する本件不法行為の後である昭和五六年九月一一日から、内金八〇万円(6(二)(3)(4))に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五八年一月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を被告梅澤と連帯して支払うよう求める。

二  請求原因に対する答弁

1  被告梅澤

(一) 請求原因1のうち、被告梅澤が実兄である信貴の昭和五六年三月三〇日付け印鑑登録証明書を入手したこと、橋本と共謀のうえ、自己を信貴本人であると称して、橋本の紹介により、不動産仲介業者である小林及び原告と面会したことは認め、その余の事実は否認する。

原告と被告梅澤との本件売買契約は、その実質は、売買契約ではなく、被告梅澤が原告から金七〇〇万円を借り受け、その担保とするために原告主張のような買戻特約付売買契約公正証書を作成したものである。

(二) 同2のうち、柏木公証人が印鑑照合をしたことは不知。その余の事実は認める。

(三) 同3のうち、柏木公証人が印鑑照合をしたことは不知、その余の事実は否認する。

金七〇〇万円のうち山田には金二五〇万円が支払われたが、それ以外の金員は被告梅澤は受領していない。

(四) 同4の事実は不知。

(五) 同5(一)のうち、被告梅澤が信貴名義で本件不動産について買戻特約付売買契約を締結したこと、本件売買契約において買戻代金が金八九五万円と定められていることは認めるが、その余の事実及び主張は争う。

同5(二)(1)(2)の事実及び主張は争う。

同5(三)(1)ないし(4)の事実及び主張は争う。

2  被告国

(一) 請求原因1の事実は不知。

(二) 同2の事実は認める。

(三) 同3のうち、柏木公証人が印鑑登録証明書の印影との印鑑照合をしたうえ、本件公正証書を作成したことは認めるが、その余の事実は不知。

(四) 同4のうち、信貴が原告を相手方として提起した別件訴訟において、昭和五七年一〇月一五日、右両名間に訴訟上の和解が成立したことは認めるが、原告と契約したのが信貴本人ではなくて被告梅澤であつたこと、被告梅澤が公証役場に持参した印鑑が偽造されたものであることは否認し、その余の事実は不知。

(五) 同6(一)のうち、公証人に原告主張のような注意義務があることは認め、その余の事実及び主張は争う。

同6(二)の事実は不知、主張は争う。

三  被告国の主張

1(一)  本件公正証書作成の経緯

(1) 昭和五六年八月中旬ころ、本件不動産売買の仲介人と称する不動産業者小林が公証役場を訪れ、柏木公証人に対し、本件不動産の登記簿謄本及び売買契約書の案文等を提示し、公正証書の作成を依頼した。

そこで、柏木公証人は、案文の内容その他について右小林に質疑して検討した結果、字句の修正をすれば公正証書の作成は可能であると判断し、同人から右案文を預かるとともに、同人に対し、同月一九日に契約当事者双方本人を出頭させるよう指示した。

(2) 同月一九日、公証役場に原告及び信貴と称する両名が来訪したので、柏木公証人は、それぞれ持参した印鑑登録証明書により、初対面である両名が本人であることを確かめたうえ、前記小林から依頼を受けて予め公正証書を作成しておいた旨を両名に告げ、公正証書正本となるべきものを買主である原告に、同謄本となるべきものを売主である信貴と称する者にそれぞれ手渡し、面前において閲覧させた後、原本となるべき公正証書に基づき、その記載内容を逐一読み聞かせたところ、両名は、いずれも右記載内容が正確である旨答え、右公正証書原本末尾の所定箇所に各署名押印したが、その間右信貴と称する者に不審な言動は見受けられなかつた。

次いで、柏木公証人は、右両名の押印した印鑑の印影と前記印鑑登録証明書の印影とを肉眼によつて対比、照合し、その同一性を認めたので、両名の持参した印鑑を使用して、順次公正証書冒頭欄外添付の収入印紙の消印及び証書用紙間の契印をし、公正証書原本を完成し、更に、公正証書正本及び謄本各一通を適式に完成したうえ、即時両名に各交付するなどして本件公正証書作成に関する一切の手続を了したものである。

(二)  各印影の相違

(1) 本件公正証書に押捺された「梅澤」の印影と印鑑登録証明書の「梅澤」の印影を対比してみても、原告主張のように字が丸みを帯びているか否か、あるいは太さが均一か否かという相違はないし、「梅」の字の「木」の部分、「毋」の部分、「澤」の字についても、原告主張のような相違は判別できない。

(2) 仮に、右各印影に原告主張のような相違が一部又は全部存するとしても、右各印影の相違点は、いずれも極めて微細なものであつて、一方が偽造印による印影であることを前提とした上で仔細に比較してようやく識別し得る程度に両者は酷似しており、そのような前提なくして両者を比較した場合には、その識別は慎重な注意を払つても容易でないというべきである。

したがつて、公証人が右両印影について肉眼照合の際に疑念を抱かなかつたことは無理のないところである。

(三)  以上の本件公正証書作成の経違及び各印影の酷似している事実に照らせば、柏木公証人にはなんらの過失もない。

2  仮に、公証人に印鑑照合上の過失があつたとしても、以下に述べるとおり、右過失と損害の発生との間には因果関係がない。

(一) 原告は、仲介人(もしくは原告の代理人)である小林を通じて本件不動産を買い受けたものであるが、小林は、不動産取引を業とする者であり、原告とはかねてから不動産取引を通じて知りあう関係にあつたうえ、本件において売買の仲介(もしくは代理)をし、公正証書の文案を作成する等重要な役割を果たした者である。

(二) 原告や小林のように不動産取引に従事する者が取引の相手方が本人か否かを確認するのは当然のことであり、本件公正証書作成までの経緯及びその後の経緯等に照らすと、原告は、小林を通じて信貴と称する者が本人ではないことを知つていたか、もしくは知らなかつたとしても、取引当事者として、相手方が本人か否かということの確認を怠つたため人違いであることを看過した重大な過失があるというべきである。

(三) これに対し、公証人の公証事務は、既に私人間において合意のできた契約内容を公証する事務であり、公証人が本件公正証書作成の過程において、印鑑の印影と印鑑登録証明書の印影との極めて微細で識別困難な相違を看過したとしても、右取引当事者である原告の重大な過失と対比すると、原告主張の損害はそれが発生したといえるとしても、専ら原告の右過失により売買契約を成立させたことに起因するのであつて、公証人の印鑑照合上の過失と損害の発生との間には因果関係がないというべきである。

四  被告国の主張に対する原告の反論

1  被告国は、公証人が印鑑照合をするにあたつては偽造印による印影でないことを前提としてこれを行えばよいと主張するようであるが、右は公証人法二八条の解釈を誤るものである。

2  原告は、公証役場に出頭した被告梅澤が信貴本人でないこと、被告梅澤が公証役場に持参した印鑑の印影と印鑑登録証明書の印影とが異なつていることを公証人から告げられていれば、本件売買契約を締結し、その代金を支払うことはなかつたから、公証人の過失と原告主張の損害との間に因果関係があることはいうまでもない。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因2の事実は当事者間に争いがなく(ただし、被告梅澤との間では、柏木公証人が印鑑照合したとの点は除く)、被告梅澤が実兄である信貴の昭和五六年三月三〇日付け印鑑登録証明書を入手したこと、同被告が橋本と共謀のうえ、自己を信貴本人であると称して、橋本の紹介により、不動産仲介業者である小林及び原告と面会したことは、原告と被告梅澤との間で争いがなく、柏木公証人が印鑑登録証明書の印影との印鑑照合をしたうえ本件公正証書を作成したこと、信貴が原告を相手方として提起した別件訴訟において、昭和五七年一〇月一五日、右両名間に和解が成立したことは、原告と被告国との間で争いがない。

二  右争いのない事実に<証拠略>を総合すると、以下の事実が認められる。

1  昭和五六年三月末ころ、被告梅澤は、実兄である信貴に対し、借用証二通を示しながら、金八〇万円位の借金をするので保証人になるよう懇請するとともに、右の借用証に印鑑登録証明書を添付する必要があるとして、印鑑登録証明書二通の交付を依頼したところ、信貴はこれを承諾し、被告梅澤に昭和五六年三月三〇日付け印鑑登録証明書二通を交付した。その一、二日後、被告梅澤は信貴に対し、不足書類があつたとして、委任状の交付を求めたので、信貴は代理人欄及び委任事項欄白地の委任状一通を同被告に交付した。

2  そのころ、被告梅澤は山田から、弁済期を同年六月一五日として金銭の借り入れをし、その際、信貴所有の本件不動産を担保に供すべく、右印鑑登録証明書二通と委任状一通を山田に交付したところ、山田は、その後、右委任状及び印鑑登録証明書一通を使用して信貴所有の本件不動産に浦和地方法務局所沢出張所同年六月一五日受付第一九〇六七号をもつて、昭和五六年三月三〇日金銭消費貸借を原因とし、債権額金二〇〇万円、利息年一割五分、損害金年三割、債務者被告梅澤とする抵当権設定仮登記を経由した。

3  被告梅澤は、山田に対する右貸金の返済を怠り山田からその返済を迫られたため、弁済資金の捻出について知人である橋本に相談したところ、両名の間で、被告梅澤が信貴本人を装つて信貴に無断で本件不動産を第三者に売却し、取得した売却代金をもつて、山田に対する貸金を弁済することに話合いがまとまつた。

そこで、橋本は不動産仲介業者である小林に対し、本件不動産の所有者である信貴が、都内中野区沼袋でスナツクを経営することとなつたが、その改装費用として必要な金七〇〇万円位の資金を作るため、本件不動産を売却したいので買手を探してほしい旨虚偽の事実を述べ、本件不動産の売買契約の仲介を委託した。

4  小林は、同年八月五日ころ、都内中野区沼袋の喫茶店「クラウン」で橋本及び信貴本人を装つた被告梅澤と会い、本件不動産の売買代金額等、契約条件について打合せをしたが、その際、一旦売却しても一年後には、スナツクから上がる利益等により買戻しができるとの話が被告梅澤らから出た。右打ち合せの際には、被告梅澤は信貴本人として振る舞い、小林も同被告が信貴であると誤信した。

5  同月一〇日ころ、小林は原告に対し、本件不動産を、売買代金七〇〇万円、買戻条件付で買い取るよう持ちかけたところ、原告は買い受けの意思を表明した。

6  小林は、原告が本件不動産を買い受ける意思を表明したので、そのころ、前記喫茶店で、橋本及び信貴を装つた被告梅澤と再び会い、更に売買契約内容の詳細について打合せをした。

7  次いで同月一四日ころ、右喫茶店に原告、小林、橋本及び信貴を装つた被告梅澤が集まり、その際、原告は橋本から被告梅澤を信貴本人であると紹介され、同被告もそのように振る舞つたため、原告は同被告を信貴と誤信した。そして右四名は売買契約の内容について話し合い、売買契約書は作成せず、契約内容を記載した公正証書を作成することとし、順次合意に達した契約内容についてその都度、小林がその席上で便箋に書き取り、かくして、売買代金額、代金支払方法、買戻代金額、明渡猶予期間、同期間中の損害金額等後記の本件公正証書の各条項記載のような内容が合意された。

8  同月一六日ころ、小林は不動産仲介業者として、本件不動産の登記簿謄本及び原告と信貴を装つた被告梅澤との間の合意を記載した書面を持参のうえ公証役場に赴き、柏木公証人に面会して、公正証書の作成を依頼した。

柏木公証人は、小林が、不動産仲介業者として、持参した書面に目をとおし疑問点を小林に質したが、法的に問題となる点はなかつたため、字句の訂正をした程度で、右書面に記載された合意のとおり公正証書を作成することとし、同月一九日午前一〇時三〇分に嘱託人本人を出頭させるように小林に指示し、小林はその旨原告らに連絡した。

9  そのころ、橋本と被告梅澤は、相談の上、信貴からの入手困難な公正証書作成に必要な印鑑登録証明書及び印鑑(実印)のうち、前者については、先に山田に交付した二通のうち未使用の一通の返還を受けてこれを使用することとし、後者については、これを偽造することとした。橋本は都内中野区沼袋の「みつばや文具店」に信貴の右印鑑登録証明書の印影部分の写しを持参し、母親が印鑑を紛失したが、遺族年金を受領するのに必要であるから同じ印鑑を作成してほしい旨偽りの事実を告げて、印鑑の作成を依頼した。

10  同月一八日ころ、橋本は被告梅澤に対し、右「みつばや文具店」に作成させた偽造印と信貴の印鑑登録証明書を手渡して、翌一九日にそれらを持参のうえ、信貴を装つて公証役場に出頭するよう指示した。

11  同月一九日、当事者の出頭予定時間は午前一〇時三〇分から午後一時に変更されたが、同時刻に、嘱託人として原告及び被告梅澤が、小林とともに公証役場に出頭した。

柏木公証人は、嘱託人らとは面識がなかつたので、嘱託人らが本人であるか否かを確かめたところ、被告梅澤は自分が信貴本人であると名乗つたうえ、持参した信貴の印鑑登録証明書を提出し、原告も同様に本人であると名乗つたうえ原告の印鑑登録証明書を差し出したので、柏木公証人は、嘱託人らが本人である旨(人違いでない旨)を確認した。つづいて、柏木公証人は、小林が前もつて持参した前記書面に基づいて、当事者の合意のとおり本件公正証書の原本を作成した旨を嘱託人両名に告げ、原告にその正本を、信貴を装つた被告梅澤にその謄本を手渡し、これらに目をとおさせながら原本を読み聞かせ、両名に合意内容が本件公正証書記載のとおり誤りのないことを確認させたうえ、信貴を装つた被告梅澤に本件公正証書原本に署名押印を求めたところ、被告梅澤は信貴名義の署名をした後、名下に持参した偽造印を押捺した。次いで同公証人は原告にも同じく署名押印させた。その後に同公証人は、同日提出の両名の印鑑登録証明書の印影と公正証書原本の各嘱託人署名下の印影とを並べて肉眼で対比した(以下「平面照合」ということがある。)ところ、両印影の同一性になんらの疑問を抱くに至らなかつた。更に、柏木公証人は、両名から印鑑を受け取り、自ら本件公正証書の収入印紙に消印をなし、訂正個所の上部欄外には訂正印を押捺し、証書の各葉に契印をして、本件公正証書原本を完成させたのであるが、右消印等を押捺した際にも印鑑登録証明書の印影と肉眼で平面照合した。しかし、同公証人は両印影の同一性についてなんらの疑問を感じなかつた。なお、公証役場の書記(職員)も信貴の印鑑登録証明書の印影と公正証書原本の各嘱託人署名下の印影とを対比したが、両印影の同一性があるものと判断した。

12  原告は同日、本件公正証書において支払うべきものとされている売買代金(七〇〇万円)の内金四〇〇万円を信貴を装つた被告梅澤に支払つたが、そのうち金二四五万円は、山田に対する貸金の元利金の弁済に当てられ、本件公正証書記載の約定により、原告が山田の有する抵当権設定仮登記上の権利を譲り受け、同仮登記については浦和地方法務局所沢出張所同年九月二九日受付第二九六四三号をもつて抹消登記がされた。

また、原告は、同年八月一九日、小林に対し、本件売買契約の仲介の報酬として金二〇万円を支払つた。

13  被告梅澤は、本件公正証書記載の約定に基づき、信貴本人を装つて、神崎直樹弁護士に起訴前の和解の申立てを委任し、同弁護士は同月二四日、神奈川簡易裁判所に右申立てをした。

同月二五日、被告梅澤は原告に対し、売買残代金三〇〇万円のうち金一〇〇万円を、右和解に先立つて支払つてもらいたいとの申し入れをし、原告は、その翌日、被告梅澤の代理人である橋本に右金一〇〇万円を支払つた。

同年九月一一日、右和解申立てに基づき、信貴(被告梅澤)については神崎弁護士が、原告については高芝利仁弁護士が、それぞれ代理人として、前記裁判所に出頭し、信貴と原告との間に、売買残代金二〇〇万円は同月一八日限り支払い、それと引換えに本件不動産の所有権移転登記手続をする旨の起訴前の和解調書が作成され、同月一一日には、右残代金二〇〇万円が原告から被告梅澤に支払われ、本件不動産につき浦和地方法務局所沢出張所同月二二日受付第二九一一八号をもつて信貴から原告への所有権移転登記が経由された。

14  その後、昭和五七年五月三一日、信貴本人から原告に対し、別件訴訟が提起され、昭和五七年一〇月一五日、原告が信貴から同年一二月一〇日限り金四〇〇万円の和解金の支払を受けるのと引換えに、原告の右所有権移転登記の抹消登記手続をなす旨の訴訟上の和解が成立し、信貴が金四〇〇万円を原告に支払い、これと引換えに原告から信貴に対し右所有権移転登記の抹消登記に必要な書類が交付され、右所有権移転登記は、同月一六日抹消された。

以上の事実が認められ、<証拠略>中、右認定に牴触する部分は前記認定に供した各証拠に照らし、措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  被告梅澤に対する請求について

1  主位的請求(請求原因5(一))について

原告は、被告梅澤が信貴の印鑑登録証明書を濫用するなどして信貴に無断で同人名義で本件不動産についての本件売買契約(買戻し特約付)を締結し無権代理類似行為をしたが、右売買契約につき信貴による追認が得られない以上、同被告は民法一一七条の準用により、履行に代る損害賠償として本件買戻代金八九五万円を賠償すべきであると主張する。

そこで、本件の場合に、民法一一七条の準用を認め得るか否かは暫く措き、仮に右の準用を認めるとしても、買戻代金相当額を、履行利益として、賠償を求め得るか否かの点について、まず検討する。

前記争いのない事実によれば、本件売買契約の買戻特約では、売主が昭和五七年九月末日までの間本件不動産を金八九五万円で買い戻すことができることとされているだけで、買主たる原告が買戻しを請求することができるわけではなく、したがつて原告は売主が買い戻した際に買戻代金を取得し得るにすぎないものである。それ故、原告は、被告梅澤が本件売買契約(買戻特約付)を信貴に無断で同人名義を使用して締結したことのみで前記買戻代金相当額の損害の賠償を同被告に求めることはできず、右賠償を請求するためには、買戻しがなされたことをも主張立証しなければならないものというべきである。この点について原告は、別件訴訟の訴訟上の和解に基づき本件不動産について原告名義になされた所有権移転登記を抹消したことをもつて信貴の請求に基づき同人に本件不動産を返還したものであると主張し、いわば買戻しと同視し得るような状況となつた旨の主張をしているものと解されるけれども、前記認定の事実によれば、右の原告名義の所有権移転登記は、もともと無効な売買契約に基づきなされたものであつて原告は右登記を抹消すべき義務を負担していたものであり、その抹消は、原告が抹消登記請求権を有する信貴の訴訟上の請求により、和解をし、和解に基づく義務の履行としてなしたものにすぎず、本件売買契約上の買戻特約に基づく買戻しとは到底同視し得ないものであるというべきである。

したがつて、原告の右請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。

2  右の予備的請求(請求原因5(二))及びその他の請求(請求原因5(三)(1)(2)(4))について

被告梅澤は、前記認定の事実によれば、橋本と共謀のうえ、自ら本件不動産の所有者である信貴になりすまし、原告をして、真実信貴本人が本件不動産を売却するものと誤信させて本件売買契約を締結させ、その売買代金名下に金員を詐取したものというべきであるから、原告の被つた損害のうち、右不法行為と相当因果関係のあるものを賠償すべき義務があるものというべきである。

3  そこで進んで被告梅澤が原告に対し賠償すべき損害額について判断する。

(一)  原告が支払つた売買代金中金三〇〇万円

前記認定のとおり、原告が被告梅澤に支払つた本件不動産の売買代金合計金七〇〇万円から、原告が別件訴訟における訴訟上の和解により信貴から和解金四〇〇万円の支払を受けて損害が填補されたので、これを控除した残額。

(二)  不動産仲介報酬金二〇万円

前記認定のとおり本件売買契約の仲介の報酬として原告から小林に支払われたものであつて、本件不法行為と相当因果関係ある損害であることは明らかである。

(三)  別件訴訟の弁護士費用金四〇万円

原告本人尋問の結果によると、原告が別件訴訟の遂行を高芝利仁弁護士に委任し、報酬として金六〇万円を支払つたことが認められ、原告本人尋問の結果により認められる右事案の難易等諸般の事情に鑑みると、その内金四〇万円が本件不法行為と相当因果関係ある損害と認められる。

(四)  本件の弁護士費用金三五万円

原告が高芝利仁弁護士に対し、本件訴訟の提起、遂行を委任したことは弁論の全趣旨により認められ、本件の事案の難易、請求額、認容額その他諸般の事情に鑑みると、金三五万円が本件不法行為と相当因果関係ある損害と認められる。

四  被告国に対する請求について

1  信貴を装つた被告梅澤が信貴の印鑑登録証明書及び偽造印を持参し、右偽造印が押捺されて本件公正証書が作成されたが、柏木公証人は印鑑登録証明書の印影と本件公正証書に押捺された印影との相違には気づかず(両印影に微細な相違があることは後記認定のとおりである。)、したがつて信貴と称する被告梅澤が信貴本人でないことを発見できず、本件公正証書を作成したものであることは、前記認定のとおりである。

そこで柏木公証人に本件公正証書作成につき過失があつたか否かについて検討する。

2  公正証書は、公証人が当事者その他の関係人からの嘱託によつて作成するものであり(公証人法一条)、その嘱託が当事者本人の意思に基づいてなされることは、公正証書の効力を左右する前提要件であるから、嘱託人(代理人により嘱託がなされるときはその代理人についても)の人違いでないことの確認手続は、証書作成上最も重要な手続であるといつても過言ではなく、そのために、法は、公証人が、嘱託人の氏名を知らず又は面識のないときは、印鑑証明書(印鑑登録証明書)の提出その他これに準ずべき確実な方法によりその人違いなきことを証明させることを要求している(公証人法二八条)。そして公証人は、嘱託人が印鑑登録証明書を提出した場合に、その所持する印鑑を公正証書に押捺した印影と右印鑑登録証明書の印影との同一性を、公証人として社会通念上一般に期待される業務上相当の注意をもつて照合すべき注意義務がある(公証人に右照合義務があることは争いがない)。

3  そこで柏木公証人に右注意義務違反があつたか否かの点について検討するに、原告は、本件公正証書に押捺された印鑑の印影と信貴の印鑑登録証明書の印影との相違は、照合事務に習熟している公証人が社会通念上一般に期待される業務上相当の注意をもつて熟視すれば肉眼によつても容易に発見しうるものであるとして、種々の相違点のあることを主張する(請求原因6(一))。

しかしながら、<証拠略>により右両印影の同一性をみるに、なるほど原告主張の両印影の相違点をその指摘に従つて熟視し、あるいは場合によつては定規をあてるなどして仔細に見ると、原告主張のような字画線の長短や太さ、字体等についての相違点が認識できないではないが、右各相違点はいずれもきわめて微細なものであつて、両印影は、肉眼による平面照合では、識別困難な程度に酷似しており、その部分に相違のあることを前提にしないで見ると、その識別は慎重な注意を払つても必ずしも容易なものとは認められない(<証拠略>によると、<証拠略>の印鑑登録証明書は、その記載等からして、市役所に保管されている印鑑登録原票を複写しこれに証明文を記載したもので、その印影は朱肉の色ではなく黒色をしており、他方公正証書に押捺された印影は朱肉の色をしており、このことも右のような微細な相違点の発見をますます困難にしているように思われる。)。

更に前記認定のとおり、信貴を装つた被告梅澤が柏木公証人に対し信貴の印鑑登録証明書を提出していること、上記認定のとおり、原告と被告梅澤との間では既に売買契約の内容が確定され、その内容を記載した書面をもつて、小林が不動産仲介業者として、予め右公証人のもとに本件公正証書作成の依頼に赴いていること、原告や小林も被告梅澤を信貴本人であると信じており、公正証書作成当日、原告、信貴を名乗る被告梅澤の双方が嘱託人本人として公証役場に出頭していることなど本件公正証書作成に至る経緯に、前記両印影の相違点が微細でその識別は、その部分に相違のあることを前提にしないで見ると、必ずしも容易なものとは認められないことを総合すると、本件において、柏木公証人が両印影につき肉眼による平面照合により、両印影の相違を発見できなかつたとしても、無理からぬことであつたというべきであり、柏木公証人にこの点に過失があつたものとすることはできない(もつとも、一般に印鑑照合の方法には、右のような肉眼による平面照合の方法のみではなく、折り重ねによる方法や拡大鏡を使用する方法などより精密な照合方法もあることは当裁判所に顕著であるけれども、公証人が印鑑登録証明書の印影と公正証書に押捺された印影との照合をするについては、肉眼による平面照合により両印影の大きさ、形状、字体等を検討して同一性を確認すれば足り、嘱託人らの挙措態度や印影自体等に疑いをさしはさむべき特段の事情のない限り、右のようなより精密な方法による照合をするまでの義務はないものと解されるところ、本件においては全証拠によるも右特段の事情を認めがたいので、右精密な方法による照合を行わなかつたことをもつて、柏木公証人に過失があるとすることもできない。)。

4  してみると、柏木公証人に両印影の照合について過失のあることを前提とする原告の被告国に対する本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。

五  以上によれば、原告の被告梅澤に対する請求は、主位的請求(請求原因5(一))を棄却し、予備的請求(請求原因5(二)(2)及びその余の請求(請求原因5(三)(1)(2)(4))のうち、金三九五万円及び内金三二〇万円(三3(一)(二))に対する本件不法行為の後であることの明らかな昭和五六年九月一一日から、内金七五万円(三3(三)(四))に対する本件訴状送達の日の翌日であることの記録上明らかな昭和五八年五月六日から、それぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、被告国に対する請求は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡崎彰夫 高橋隆一 竹内純一)

物件目録 <略>

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